Baba Is You
ベガ立ちの心理学
Stephen's Sausage Roll の感想では気づきが降ってくる瞬間が楽しいと書いたけど、ただそれだけではないのかもしれない。実際、それがどんなものでもいいからただ仕組みや解法に気づければある程度満足するような気もするし、そうでもない気もする(どっちなんだい?って書こうとしたけどきんに君がちょっと大変なことになっているらしく躊躇してしまう)。
アハ体験 を得るためには、「閃きの正確さに疑いを持たない(convinced that a solution is true)」というのも必要らしい。ところでアハ体験って名前どうにかならないか。茂木健一郎が昔テレビで紹介してたのもあってなんか特別な印象を持ってしまっている。茂木健一郎氏の実績や能力に関してなにか疑いを持っているわけではないけど、昔 Twitter で上げてる動画の感じがちょっとヤバくて面白かったからそれで変な印象を持ってしまっている。
難しめのパズルゲームとかによくある、どこかから降りてきた気づきを得ないと解けないような問題を解く、ということに近いものがないかと思ってさがしたら、認知心理学の分野で洞察問題解決(insight problem solving)というのがあると知った。
人工知能学会誌(1986~2013, Print ISSN:0912-8085),洞察問題解決の性質 : 認知心理学から見たチャンス発見(<特集>チャンス発見),三輪 和久, 寺井 仁 (2003年!?全然古いかも) によると一般的な問題解決に対する洞察問題解決の特徴は以下の2つらしい。
- (a) 観点 1:一般的には,過去経験の累積=学習であり,過去経験が問題解決を促進するのに対して,洞察問題解決では,過去経験が問題解決の阻害要因となる.過去経験に基づく解決のパターンを超えるところから,洞察は導かれる.
- (b) 観点 2 :一般的な問題解決は,初期状態から目標状態への探索として捉えられる.一方,洞察問題解決では,問題解決手がかりの発見自体が決定的局面となる.手がかりの発見と同時に,探索を行うまでもなく,瞬間的に解が発見されるということが少なくはない.
この過去経験が問題解決の阻害要因となるというのは、パズルゲームで実装するとだいぶ致命的というかヤバそうな感じはする。Baba is You でそういうのあったっけ。たしかに似たようなマップだけど、ちょっと壁の位置が変わっていることで全然解法が変わるというのはあった(Depth の Extra 3 と Extra 4 など)。この種のパズルはいじわるで嫌いだなと思ってたけど、こういう背景があってあえてそういうデザインにしているのかもしれない。自分もこれからは、「さっきと言ってること違うじゃん……」ではなく「洞察を得たぞ」という気持ちで生きていった方がいいのかもしれない。なんか浅い自己啓発書みたいだ。
①間題の構造や過去の経験により,間題解決に必要な関係性の発見が阻害され,②インパスに陥り,そして,③対象となる問題を新たな観点から捉えなおし,再構成化することにより,洞察が導かれる
ソーセージの感想で自分が言いたかった問題解決までのプロセスも説明されている(実際はもっと複雑らしいけど)。さらにどうやって心的制約を緩和したり類推するためのヒントを与えるかという研究も進んでいるらしい。ゲームでも、これをどこまでガイドしてあげるかっていうのが大変なところなのかもしれない。
Baba is You は問題空間の定義が合っていたとしてもそれを実行するところも癖が強いから、閃きを信じて突き進んでいいのかずっと不安。仕様自体が複雑で隠れルールも多く、そこはシンプルにストレスで、問題が解けたときも「お前がそういうならそうなんだろうな」と感じてしまう。文字が重なったときは何がどういう優先順位で処理されているのかいまだに分からないし、単独の単語でも TELE や SHIFT はもちろん、FLOAT や PUSH, PULL みたいなシンプルなルールも組み合わせたときの挙動がややこしかったり、もう大体全部の仕様が信じられなくなってくる。こういうのも過去に体得した知識が間違っていたことに気づくことで洞察を得るようなデザインになっているのかもしれないが、手がかりの発見と同時に解が発見されるというのには反している気がする。もうパズルゲームはそのレベルまでやらないと満足されなくなっているということかもしれない。
問題解決者は,過去の問題解決経験にこだわり,誤ったオペレータを繰り返し適用して問題を解決しようとする.
上の解説文では他にも洞察問題解決の特徴(心理的制約)を列挙しているところがあり、それが面白かった。お前自分のこと言ってんのか?って感じで。
各レベルの初期の制約は,失敗を重ねるに従い,その強度が徐々に緩和されて,制約を逸脱した探索が増加し,確率的に洞察に至ると考えられている.
(開一夫,鈴木宏昭:表象変化の動的緩和理論:洞察メカニズムの解明に向けて,認知科学, Vol.5, No. 2, pp. 69-79 (1998))
なんにもわかんないときにとりあえず思いつく動きを片っ端から試して何か降りてくるのを待っている状態のことも、ある意味確立された手法として定義されている。これからはなんも思いつかなくてただランダムに手を動かしているだけのときは「動的な制約緩和をしている」って言えばいいのか。Baba is You でも頻繁にこの状態に陥り虚無の状態になっていた(上でも引用したけどこのような虚無状態のことはインパスというらしい。こういう用語知ってるとかっこいいけど鼻持ちならない感じもする)。
洞察問題解決の手法について調べれば Baba is You が得意になったりするのか?具体的にすぐ使えるものはないだろうけど、とりあえずガチャガチャ動かしたり、一回まっさらな状態にして全然違う方法を試してみるということも、すくなくとも有効な場合があるということを知っておけば、ゴールから遠ざかっているわけではないと精神的な安心は得られるかもしれない。
問題解決者は,解の発見に有用なデータを無視する.解を知っている第3者が傍目から見ていると,「そこにもう答えがあるのに何で解けないの」といったような状況がしばしば生じる
あ?