Blue Prince

誰も Simon の様子を直接見に来ない

Blue Prince

Steam

少なくとも一つ目の Room 46 に辿り着くまでは多くの人間にとって楽しいゲームだと思う。そこからはわからない。この世のほぼすべてのことがそうであるように、楽しい時とそうでもない時がある。

一つ目の Room 46 へ辿り着くまでに絞れば、手がかりは直截的なものが多く、新発見の密度も高いので行き詰まりを感じにくい。建てたことない設計図や見えているけど行けない場所がたくさんあるうちは。

Room 46 への足掛かりとしての "Objective" である Room 45 (Antechamber)を目指す中で、プレイヤーが新しい具体的な目標を見つけるフローは、かなりしっかりとデザインされているように感じた。

とてもざっくりだけど、Room 46 へ向かう過程は以下のような謎解きの流れで進む。

  1. Antechamber の扉の開け方
  2. Underground への行き方
  3. North Lever への辿り着き方

この3つのやり方が分かれば、あとは集めた情報から計画を練ってうまいことやるだけ。「ストラテジーパズルアドベンチャー」って感じがするし(ストラテジーパズルアドベンチャーをこのゲーム以外で聞いたことないけど)、事前にちゃんと対策してきた試験問題を解くときのような、「自分って結構やれてるぞ」みたいな手ごたえがあった。

ここで挙げたそれぞれの謎の発見や、その謎に対する手がかりは、半ば偶然見つかることが多い。例えば自分の場合、なんとなく開けた Great Hall の小部屋でレバーを発見して Antechamber の扉の謎がわかった。地下への道も、もろそうなレンガの壁を見て「これって壊せるんじゃないか」と感じていたときに、たまたま Workshop で Power Hammer が合成可能なことを知ったことで開くことができた。

偶然の発見とちょっとした推理がつながったときに、謎解きの気持ちよさがある、とよく言われている気がする。Room 46 への過程は本当に気持ちいい瞬間が多かった。

じゃあ、Room 46 の後はどうなんだって話になるんだけど。どうなんだろう実際。

まず、このゲームは全体的に、一つの謎に対して複数の手がかりが用意されている。このおかげで、全部の手がかりを集められなくても、残りの情報を推測したり、総当たりで解けるようにもなっている。これは個人的には好きだった。

特に Sigils の謎解きは、全部の手がかりを集めようとしたら気が遠くなるけど、3つ程度要素を特定したら後は総当たりで十分解ける。しかも、Sigils をすべて解くことで解る Room 46 の謎も、そもそも8地域すべての Sigils を解明する必要はないようになっている。

ただこの手がかりの多様さのせいで、ゲーム中に得る新しい手がかりが既知の情報になることも頻繁にあった。特にランドルフからの手紙でこれが顕著だった。

しかし、これも一辺倒に批判できるものでもなく、後になって「あーあれってこの謎解きの手がかりにもなってたのか」となることも多かった。例えばランドルフの手紙の場合、書かれた内容は Room 46 に辿り着いた後のプレイヤーにとって有用なものは少ないが、切手は Sigils を解く上で重要な手掛かりになる。

つまり、得た情報がどこで役に立つかは発見した段階では不明。そして、一度得た情報をゲーム中に後から見返す機能はない。これが結構厳しかった。

謎解きと探索要素が合わさったゲームでは、前に見た要素を再調査するためのバックトラックは頻繁に必要になる。さらに、Blue Prince 特有の要素として、ローグライク風の繰り返しや、出現するフロアプランやアイテムのランダム性の強さがある。このため、「次はこのヒントについて調査してみよう」と計画を立てて進めることはなかなかできなくて、そのランで偶然発見できたことに引っ張られがちになる。

単純に、そのとき調べたかったことが見つけられなかったフラストレーションがたまる問題もある。ただもっと大きい「問題」は、見つかる手がかり(鍵、暗号、パスワード、blue memo)がランダムに、確率的に均されてしまうことだと感じた。

これも悪い面だけではなく、平均化されることで突然ゴールにつながる重要な手がかりやアップグレードアイテムを得て一気に進捗することがある。Room 46 までは目的が一つなので、特にこの恩恵をうけやすい。

Room 46 以降は8つの Sanctum keys、金庫、Micro chips、Blue Seal、Numeric Core など複数の目的を並行して進めることになるので、このランダム性のおかげでより混沌となる。普通の謎解きゲームならごちゃごちゃになっても自分で何から進めるかを決定できるがこのゲームではそうではない。

つまり、Room 46 まではゴールに向かって情報を集めながら進むデッキ構築型(あまり構築要素はないけど)ローグライクとしてバランスがとれている。しかし、それ以降は、システムと少し矛盾する形で別の謎解きをやらされているという感覚がある。

まあ、オマケ要素だし、作者自身、すべてのプレイヤーがゲーム中に用意された全要素に辿り着くことは想定していないと述べている[1]ので、そういうもんなんだろうな。

とはいえ、Atelier まではやってよかったと思った。最後にこれまでのすべての要素をおさらいするような謎解きが出てくるのはベタだけど感慨深いものがある。『Stephen's Sausage Roll』でゲームの開始地点まで戻るやつみたいな感じがして。

でも、Atelier まではもうちょっと辿り着きやすくなっていても良いんじゃない?そうでもないですか?あの、Numeric Coring の方法が掛かれた資料が入ってるキャビネットの場所って普通にやってたら気づくものなの?あと、Blue Memo 探しについてもみんなはなんて言ってるんだろうか。

Day One は正直軽い気持ちで手を出したのを後悔した。運要素にものすごく足を引っ張られて「今のって自分が悪かったか?」ってなることが多かった。でも、はっきりと自分が悪いかどうかが曖昧なおかげで無心で繰り返し作業ができたところもある。自分じゃなくてゲームが悪いという言い訳が残ってる方が気が楽。あと、Day One やったおかげで各部屋への思い入れが、それこそ Auravei が書いていたように、深まっていったので Atelier の探索が楽しくなった。

  • でも、一番興奮したのって、Show Room で初めて商品全購入したときかもしれない。偶然 Tomb で大金を手に入れて、Chapel の貯金箱を壊して。結局、想定を超えて何かの数字が大きくなるのはギャンブルなので楽しい。
  • いや、ElectromagnetでLocksmithの鍵全部盗んだ時も興奮した。こういう、メインの謎解きに直接絡まないけど興奮した瞬間もたくさんある。

ゲーム内の謎解きや、プレイヤーが部屋を選んで進んでいくという基本的な仕組みは 1985 年にリリースされたゲームブック 『MAZE』 をかなり参考にしているらしい[1:1]。そもそも、こういう視覚パズルとかイマーシブパズルとか呼ばれるゲームの元祖である 『MYST』 がこの 『MAZE』 の原型を基に作られているという話もある[2]

『MYST』 と同じく90年代の『Knightmare』もどこか似たような雰囲気を持っていたのを思い出して、90年代の「しかけ絵本」共通のスタイルがあるのかもしれないと思った。

『Blue Prince』 内には具体的なモチーフがほぼ出てこないにも関わらず、ゲーム中の設定年代である90年代の雰囲気を持っていたように感じたのは、そのさらにベースとなっているような自分の知らない作品とかがあるんだろうなと思いました。


  1. https://www.inverse.com/gaming/blue-prince-interview-tonda-ros-no-dlc-maze-christopher-manson-intotheabyss-white-raven ↩︎ ↩︎

  2. http://www.intotheabyss.net/maze-introduction/ ↩︎