Citizen Sleeper

In Other Waters でも強い菌類が出てきた気がする

Citizen Sleeper

Steam

すごいおもしろかった。

序盤の金も住む場所もろくになくて、しかもしょぼくれた殺し屋に追われているところから、なんとか生活基盤を組み立てていくところの理不尽なくらいのきつさは、なんか好きだな~って感じ。
ストーリーは面白いし、驚きは残しつつもこのクエストラインを終えたらどういう報酬が得られるのかがなんとなく察せるようになっていて、ゲームとしてフェアな感じがした。ただ、フェンはお前、トラッカーを取り除くって言ってからあんなにかかると思わなかったぞ。
でも、トラッカーを取り外すのが間に合わず追っ手を撒くことに失敗してもイーサンの奇妙な提案のおかげで命拾いしたり、想像してなかった偶然で生存チャンスが訪れるようになっているのも面白かった。
こういう、失敗したなーって思ったときに思いがけない救いの手が現れるのって、期待するのも変だけど、この手のゲームの醍醐味のような気がしてる。

コンウェイ採掘社とハーディンのやり取りなど、すごく単純化された権力者、資本家像だなと思わなくもなかったけど、まあ現実にこういうやつはいるんだろうな。
現実の人間だってなんならフィクションの登場人物よりもずっと典型的な行動をしているのに、追加エピソードで出てきた強硬派の人間みたいにフィクションにそういう人間が現れると突然子供だましっぽく見えてしまう。結局こういうのは「この人物の掘り下げにテキスト量を割くべきか?」という判断の結果でしかないし、本作では"瞳"に暮らす一般市民の目線に徹底しているからそうならざるを得ないのかもしれない。

「資本主義批判」みたいな話は、今時どうしても陳腐な感じに見えるかもしれないけど、この物語全体が持っている若さに由来する社会に対する不安を象徴しているようで一貫性があるように感じた。追加エピソードの最後のキャスターとの問答にも、その不安が表れていると思う。キャスターは「リスクを行動の結果としか考えず、無謀に突き進んでいけばどうなる?リスクを行動の主たる指針とはかんがえずにな?」と言うが、実際、リスク計算はいわゆるホワイトカラーの仕事をしていたら誰にでも求められるようなことで、ROIだかなんだか計算したりとかみんなやってることなんだけど(どれくらいできてるのかはわかんないけど)、結局、それはすでにある程度の役職や立場を持っている側の論理で、まだ何の立場にも就いておらず、これから自分の人生を見つけなくてはいけない人間にとっては、計算できないリスクを無視して何でもやってみるしかない。このやり取りや、大企業に対する嫌悪すら感じるほどの描き方から、理不尽に感じるほど強大で成熟した社会の構造に対して自分の居場所を見つけなくてはいけない不安と、それでも未来に対して希望を持たなくてはいけないと葛藤する若い精神性を持った物語なんだなと思った。
追加エピソード前では、ハーディンをはじめとした各ファクションの腐敗に対して正直他人事感があり、登場する悪の企業たちも主人公が望んだものを得るために対峙すべき単なる敵程度の存在感しかなかったが、追加エピソードでピークというキャラクターを通して企業やシステムに対峙することに意味が明確になった気がした。
こういうシステムや企業の腐敗を声高に叫び批判することは人によってはそれこそ若者の戯言に聞こえるだろうし、そんなこと言われたって自分は仕事を続けるしかないんだからいちいちやかましいこと言うなよという気持ちにもなる。でもこの物語によって、現実のシステムに対して反発(自分の場合は無視という最も消極的な形でしかなかったけど)を続けるべきかそれとも適応していく方法を探すべきか葛藤した頃の記憶を鮮明に思い出し、はっきりとした答えをまだ持っていないことにも気づかされる。自分はどうしたらいいんですかね?

  • 殺し屋に飲み屋のツケを肩代わりして払わなくちゃいけないとき、もっといろんな人に相談してもよかったんじゃないか。Disco Elysium のハリーはその点会う人ほぼすべてに金の無心をする選択肢があってよかった。
  • ハーディンみたいなやつに対してリアリティを感じるかどうかは、アメリカとかに住んでて毎日のように狂った金持ちのスキャンダルを聞いてないと、いまいちピンとこないのかもしれない。