Disco Elysium
ロールプレイなんかできるかよって奴のためのRPGなのかもしれない
皮肉とかではなく本当に、色々な種類の人間に対するやさしさにあふれていたと思う。
極端な政治的主張も含んだ大量の選択肢、多種多様なスキルチェックにあふれたRPGなのに、プレイヤーがどんなロールプレイをしようとしても結局ハリーはハリーにしかなれず、結末もほとんど変わらないのは本末転倒なんだけど、それが最もレヴァショールらしさを表しているのかもしれない。この土地で何者かになろうとする奴なんて、記憶喪失のイカレた人間だけ。ロールプレイなんてブルジョワにだけ許されたただのお遊び。それをRPGとして追体験させられるのは、うんざりするくらい皮肉めいているけど、嫌にならないギリギリのところで、なにか愛嬌のようなものがある。
最終的には、これまでの社会的実績、身体的特徴、強迫観念やトラウマ、それらすべてをないまぜにして、「ハリー・デュボア」のロールプレイをするしかない。「人生」とはもはや、だれかから与えられたものでもなければ自分自身が選んだものですらないが、ここにしか進む道が無いようなふりをしてただ生きるしかない。こうした統合の問題を、記憶喪失で人格が分裂した主人公を介して詳細に語られることで、そういう感覚を自然な人間らしさのひとつとして描かれているのがどこかうれしかったのかもしれない。
みんな、自分たちの住んでる世界が当たり前だと信じて疑わないのではなく、正直どこかおかしいんじゃないかと思いながら、なんとなく日々をやっていってる感じがとても現実らしい。
自分もレヴァショールに産まれていたら、「こういんもんだろ」と思いながら暮らしていただろうな、という感じ。
以下は好きだったところ
硬派な見た目をしているので、勝手にすごく複雑なゲーム性だと思ってたけど案外とっつきやすかった
- 伝統的なTRPGみたいな(あんま知らないけど)、パラメータに数値を割り振ってキャラビルドして、何か行動を起こすとダイスでスキルチェックが行われて、パスすれば比較的良い結果になるという感じ
- それでも、至るところにダメージを食らう場面があるので、ビルドによっては序盤で死にまくることもあるかも。自分がそうだった
- セーブ/ロードは無料なので、序盤はそのあたりを駆使しながら進めてた。
主人公が多重人格で生活が荒れ果ててて、記憶喪失のおっさん
- めちゃくちゃな設定に聞こえるけど、プレイしてみると違和感なくゲームシステムとして実装されているから割とすんなりこの状況を受けいれられる
- その多重人格がゲームにおける各パラメーターになっていて、会話中などことあるごとにパッシブスキルチェックが発生して、成功するとその人格がアドバイスをくれたり、ときには選択肢が増えたりする
- 共感性の高いヤツとか論理的思考能力が高いヤツがいて、この選択肢を選べば相手を怒らせないで話を進められるぞ、とか相手の話の矛盾に気づいてそれを指摘する選択肢が増えたりとか
- ただ、中には怒りっぽいだけで、いつも「コイツバカにしてやがるぞ!思い知らせてやれ!」みたいなことしか言わないヤツとか、ずっとセックス、アルコール、ドラッグのことしか考えてないやつとかもいる
- でもそういうやつでも役に立つときがある。しょうもないレイシストのトラックドライバーに圧かけて秘密を聞き出したりするときとか。
- いつもアドバイスしてくれる多重人格が元カノの夢やクラーシェに対して全然役立たずになるのとか良かった
- こういうゲームってどういう方針でロールプレイしたらいいかいつも迷うんだけど、初めからめちゃくちゃだとどうやってもいいやという思いになって、気持ちの上でやりやすかった
会話の選択肢や探索中の行動、パラメーターによる細かい会話の変化が無数にある
- けど、話の大まかな流れは基本的に同じ
- なので、何かやり逃した要素とか見逃した要素がないかを気にしても、そもそも回収はほぼ不可能なのであまり気にしないのが吉かも
どの瞬間も絵になっていて、眺めているだけで満足する感じがある
- この手のゲームではよくある、同じ道を行ったり来たりが必要で、そういう移動が正直怠い問題も、許せる気分になるかもしれない
- 朝、ワーリングインラグズから出た瞬間とか、流れる音楽 Instrument of Surrender も相まって雰囲気がすごく好き
UIというかテキスト表示が快適だった
- チャットのタイムラインのようにどんどん下にスクロールして追加されるように表示されるので、流し読みと相性が良かった
- ちょっと読み飛ばしちゃったところも、選択肢が出てからスクロールを戻して重要な部分だけ読み返したりが楽になってると思います
- また、激ヤバ優生思想のマッチョが狂った自説を延々と語りだしたときとか、「こんなのマジに読んでたら頭おかしくなるぞ」という場面が結構あるのでそういう時に助かる
出会う奴全員最初は印象最悪だけど、話してると案外悪いやつじゃないんだなとなってくる
- みんな軽犯罪はしてるけど、主人公もやってるのでおあいこですね
- 41分署の同僚やキム警部補、ハーディ・ボーイズとか、組合の人間大体そう(イヴラート以外)
- 特に襲撃事件があってからはマルティネーズ側(?)につくような感じになるからハーディ・ボーイズの面々の態度がガラッと変わる感じ
- 2週目始めたときのキムのそっけなさに悲しくなる
- ずっと印象悪いやつもいる
少し変わった人に対するまなざしが温かい
- 主人公も含めて大体何か依存症めいたものを持っている登場人物が多いのもあり、そういう人も一人の人間としてリスペクトしている感じ
- 狂人を単なる舞台装置じゃなくて、背景とかそいつなりの合理性とかを持ってる一人の人間として書こうとしている感じが好印象だった。自分もどちらかというとその一員だと思っているから
- 飲んだくれのホームレスとの会話もテキスト量がたくさんある
識域とかのSFっぽい世界設定系の話は伏線にもなってるし面白かった
- でも、一週目だとゲーム中に体験することがほぼなかったからそんなには印象に残らなかった
- 直接ゲーム中で体験するのはハードコアなディスコでのイベントくらい?
- ある地域や人々が貧しく荒んでいるのは、識域のような人間にはコントロールできない要素のせいかもしれないというのは、個人的には割と好きというか、現実もそうかもしれないと思っている節がある
- 最後のジャイアントナナフシも面白かった。ちゃんとフェロモン吹き付けてもらったのも意味あったんだね
ハリーの最後の事件にならなかったのは意外だけど良かったと思う
- ハリー以外にも、みんな割と大変な目にあったりそんなに希望があるわけではないけど未来はある感じ
- ゲーム全体を通じて、楽観的ではないけどとりあえず人生が続くというだけでマシというかそう思っていないとやってられないよねという気持ちに共感してくれるような
- 諦観と言ったらそうかもしれないけど、とりあえず生きるには何か動いていないといけないし、そういうことに自分で文句を言っててもしょうがないなという気持ち
- ちなみに分岐によっては最後の事件になるパターンもあるらしいけど、キム警部補を昏睡状態にする必要があるのでまだ見れてない
キム・キツラギなんでも説明してくれてありがとう
- キムがいないと死んでたって瞬間がたくさんある。例えば、元カノからの手紙を読んで意識を失ったときとか。