Hotel Sowls
蛇口を見ると、全部出しっぱなしにする実績があるんだろうなって思っちゃう

不思議で低血圧なユーモアにあふれた、落ち着いたウォーキングシミュレーターのような雰囲気で始まって、最後には割としっかりとしたコズミックホラーになっていく。
不穏な仄めかしは序盤からたくさんあるけど、「これって本気でホラーをやる気なの?」という疑いの気持ちが、プレイヤーの警戒心を解かせて、ノーガードになったところに打ち込んでくる。ともすれば混沌とした狂気の産物か、キッチュで荒唐無稽なギャグにしか見えない作品が多い中で(そういうのも好きなんですけど)、このゲームは、一見ちぐはぐだけど、どこか少しでもずらすと破綻してしまうような、奇妙なバランス感覚を持っている。
『それ』が何かの手違いで宇宙から落ちてこなければ、このホテルは存在できなかった。ホテル・ソウルズの全てが、ボタンを掛け違えたかのような違和感と、それでも機能してしまっている状況を表現しているようだった。
余りにも緩いキャラクターと凹版印刷のようなリアルな陰影を持つオブジェクト、妙に落ち着いたBGM、ゆっくりスクロールする星空のような背景のパターン、なぜかインタラクト可能な観葉植物のスタッキー、切迫した状況でもどこか緊張感のない言い回しのテキスト。見れば見るほど意味不明だが、その配置には独自の美学を感じる。
そもそも、石を『それ』に返した後の誰もいなくなったホテルが、何の掛け違えも起きなかった世界なら、このホテルの雰囲気に、不気味なだけではない、なにか少しでも「良い」印象を受けること自体に意味が生まれる。これが記憶に残る雰囲気ゲーの重要な要素なのかもしれない。
このゲームから良い印象を受け取った人間が、それなりの数いるというのが、なんかよくわかんないけど良いことのような気がした。