Pentiment

芸術が死を模倣してたかもしんない

Pentiment

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Felvidek をやって頭が中世づいてきたときに、ずっと気になってたこのゲームがセールになっていたし日本語版が出ていたのでやろうと思った。
正直これについて何か書けるような深い洞察や教養を自分がもっているわけないので、ちょっとした印象とか直観以外に書くことが何もないのが残念な感じある(ほかのゲームの感想も大体そうだけど)。

実際、教養小説でも読んでるかのような学術的な問答とかも出てくるけど、話はそれほど衒学的で難解というわけでもないし、殺人事件をめぐるミステリー的な要素や、当時の庶民の生活の描写など、シンプルに楽しい。

冒頭部にいきなり現実世界から始まらないのはぶち込んできたなと感じたけど、あの「記憶の宮殿」シーンのおかげで、特に歴史的背景知識がなくても、教会の権威が薄れつつあり、現代の人間から見ても違和感ないくらいの批判的視点は、教会に対してみんな持っていたんだなというのが分かる親切なつくりだと思った。

1524(1525?)年のドイツ農民戦争をメインで扱っているので、歴史小説を読んでる時のような「ここはお勉強の時間だな~」というところがある(そういうのは嫌いではないです)。戦争の話を真正面から取り扱っているので、Act 2からは終始陰鬱なんだけど、中世の挿絵風のグラフィックが持つ愛嬌みたいなものに救われた感じがある。

じゃあ、教会や農民一揆の話がほとんどなのに、なんで芸術家が主人公なの?
個人的には、それなりに長めのモラトリアム期間を過ごしていて、当時としては比較的自由で先鋭的な思想を持っていたとしてもそれほど違和感がない存在として、芸術家がちょうどよいと判断され選ばれたんじゃないか、と思った。
現代のそれなりに発達した資本主義社会の住民は、庶民とはいえ都市で暮らす人間がほとんどで、特にこんなゲームをやるような連中は、生活環境とかの面で、中世の農民にいきなり感情移入できないかもしれないし。

実際、Act 2に入ってからのアンドレアスの境遇や悩みは現代に置き換えても通用するものがほとんど。そんな生活の不安でいっぱいの中、なぜアンドレアスがわざわざ殺人事件に再度首を突っ込んだのかは、なんかいろいろ解釈がありそうだなと思った。

自分は、社会的な立場がある中年としてどのようにふるまうべきか、という考えに雁字搦めにされた姿をアンドレアスに見たような気がした。「記憶の宮殿」が廃墟になっている様子から、内面はもう自覚症状があるくらいボロボロなのに。
それに加えて、あきらかに息子の影を投影しているキャスパーに対して父親としての格好を見せようとしてそうなってしまったのか。でもキャスパーがいることでギリギリのところで持ちこたえていたところもあるだろうし。
社会的な役割に押さえつけられながらも、それにしかよって生きるものがないというのが、なんかこう妙に身に染みてわかるなと思ってしまった(自分は今全然責任ある立場にいるわけではないのに、なんででしょうね)。

史実を元にした話はどうしても、単一の視点というか「男性的」な物語になってしまうところがあり、なんかちょっと暑苦しくなってしまう感じがある。でも、このゲームでは女性やゲイの話なども出てきて、性に対する見方が(当然だけど)当時から色々あったというところをカバーされていて、当時の生活のリアルさをより実感しやすかった。参考文献(『https://www.taylorfrancis.com/books/mono/10.4324/9781315269719/sexuality-medieval-europe-ruth-mazo-karras』)を見ているとこういう話にもちゃんと裏を取ってそうな感じがある。

これも含めて、論文かよってくらいの参考文献の量が細かい部分の説得力を補強してるんだろうな。こういうの面白いし、他のゲームも参考文献載せてほしい。

話がそれたけど、Act 3 では、どうして主人公が芸術家なのかという点に、タッシングの歴史を残す存在という別の意味が出てきた。こういう地域の歴史を語り継ぐというのも当時は、というか歴史的には芸術家の仕事だったんだと思った。

  • 自分は恥ずかしい人間なので、ゲームをやる前は何も知らなかったことをさも知っているように書いています。
  • オープニング(とエンディング)のあの本が 『ヒストリア・タシエ』だったってことだろうか。でも、最後にこれは全部本に書かれた話だったんですよ、とすることで、ゲーム中のチェックや選択肢に正解などはない、全てのプレイスルーがそれぞれ完成された物語なんだとするのは無茶がある気がする。まあ、誰もそんなことは言っていないんだけれど、なんか気になってしまった。
  • 暴動の最中で死んだと思われていた人間が、遺跡の地下通路を住処として、何十年も人目を隠れて生活していたというのが最後に明らかになるのはちょっと Disco Elysium を思い出した。そういえば脳内にいろんな人格を飼っているのも。なんか、なんでも Disco Elysium につなげようとするヤバい奴になっている気がする。
  • 日本語訳は不安定というか、明らかに機械翻訳そのままじゃない?ってところがあって辛かった。同じ話者でも口調や一人称がコロコロ変わったり、固有名詞の表記ゆれとかはもう慣れっこだけど、Act 1 の墓暴きのシーンなど、もう何言ってるのかが全然わからないところがちょくちょくある。日本語化改善MODを作ってくださっている方がいるからそれを使えば良かった。
  • ちゃんと仕事してる異端審問を初めて見た。まさかの時に出てくるやつしか知らなかった。いや結局冤罪だから仕事できてないか。