The Invincible
「Not everything everywhere is for us」の視力検査表欲しい
主人公は、原作でいうと、最初の被害者であるコンドル号の乗組員と、崖で虫に襲われたときのロアン隊の状況が混ざったような立ち位置にいて、だいぶ圧縮されてる感じがある。レギスIIIという舞台設定とそこで起こる事象以外の、なんというか、ドラマ部分は原作から結構変わっている。でも「すべてのものが、あるゆる場所が、われわれのためにあるのではない」というテーマは重要な位置づけのまま変わってない気がする。
おそらく、Yasna と Novik の関係は、原作でいうロアンと船長の関係に対応していると思う。一方、この二人の会話は原作に比べて圧倒的に多いし、比較的対等な立場なのでだいぶ印象が違う。やっぱり原作の、厳格で堅物だった船長がキュクロプスの破壊後にロアンに対して弱みを見せて最後の救出ミッションで本当の意味で同志みたいになるのはありきたりだが好きだったので、少し印象が弱く感じた。
それでも、原作から受けた二人の関係の印象としては、時代の違いはあれど体育会系すぎてついてけないようなものもあり、これがそのままゲームになってずっと高圧的なおっさんから一方的な命令口調で指示出され続けたらさすがに我慢できないかもしれない。これくらいの関係になって良かったとも思う。
あと、自分があまり英語のニュアンスまで分からないから、ゲームが進むにつれて Novik と Yasna の関係というか、会話の雰囲気が変わっていたとしても読み取れなかったというのもあるかもしれない。
でも、最初に Antimat から逃げのびた後 Novik からはっきりと、「行方不明者の捜索を行わず被害を最小限に抑えて脱出する」選択を迫られるのは割と決定的な違いな気がする。
こういうはっきりした対立や反抗の構図が示されると原作でロアンが船長の部屋で熟考の末至った結論とは大分毛色が違って見える。そもそも調査の継続に懐疑的だったロアンが、十中八九死んでいる行方不明者の捜索するなんて狂っていると認めたうえでそれでも意味があることなんだと結論づけて出発するのとは結果は一緒だけど経緯が逆になっているように感じた。
ゲームでは、捜索する行方不明者が Yasna のクルーメンバーだけではなく、名前も知らない Alliance の人間になっているというのもあるし、このまま退却するか最後まで捜索すべきかのジレンマが少し弱くなってるような気がした。とはいえゲームの主人公である Yasna の立場はロアンと違い副船長ではなく学者だし、科学的な誠実さというか真実の探求みたいな観点でレギスIIIに残る決断をする方が主体的というか自身の信念に基づいた行動といえるのかもしれない。
この決断に至るまでの経緯は好き嫌いで言えば原作の方が好きかも。これまでの「副」船長という立場から急に自分で決断を下さないといけない立場になって、これまで非合理的だと思っていたことに対してそういうのを超えて貫かなくてはいけない信念みたいなものがあることに気づいたり、その過程でこれまでちょっと距離を感じていた船長の人間らしい部分も見えてくるというのが結構熱い展開で好きだった。こういうのは結局、自分の今の状況とか経験とかにすごい影響されるし今はこれが真実なんだと思い込みたいだけかもしれないけど。
まあ、そもそも一人称視点のアドベンチャーゲームだと主人公が現場で調査する以外の選択肢が実質無いから(プレイヤーは皆レギスIIIをもっと探索したいと思ってるだろうし)、主人公を媒介としてこういう葛藤を実装しづらいんだろうなとは思った。
そういうこともあって、主人公はどちらかというと先に覚悟を決めてしまっているから Rohytra の存在が結構重要になってきてると思った。ネクロスフィアという異質な存在を受け入れるために人間中心主義的宇宙観を脱していくというもう一つのテーマが Rohytra との最後の議論で表れている。説得のためには科学的客観性に基づいて根気強く説明するのもそうだけど、ゲームシステム的に先に人としての信頼(というか好感度?)が必要なのもなんかリアルで良いと思った。
《都市》の描写は、原作でもすごい具体的だったけど自分の想像力がついていけなかったところもあった。例えば「ハリネズミが毛を逆立てたような、ブラシのようなその表面」など、もっと毛羽立ってるのかと思ってたが、ゲームでは繊維質であることを強調するような見た目になっていた。「枯死した植物がまとわりついた岩石の遺物」などもゲーム中にも同じ文章が出てきていたし、これらが CG として表現されてるのを見ることができて面白かった。あと「ミツバチの巣の巣板」も原作で出てきてたけど、そういうのも忠実に再現されていてうれしかった。なんか、本で読んだ場所を実際に訪れてるような感じ。
コンドル号の内部の様子とかも恐ろしいんだけど、歯形がついてる石鹸とかを見つけると「これ本で読んだやつだ!」ってなってちょっとうれしかった。
戦闘シーンは原作小説での描写の方が迫力があるように感じた。キュクロプスとネクロスフィアの戦闘は、プローブの低解像度の映像でしか確認できないというのをゲームでは忠実に画にしていたため、たしかにこんなもんだよなという感じではあるけど。しかも、原作ではインヴィンシブル号の乗組員たちが固唾をのんで見守っていたのと違って、Yasna と Rohytra のたった二人で見てるから、そういうところでもよりこじんまりと感じた。
ネクロスフィアとのコンタクト(?)を図るエンディングで、ボットが集まってYasnaの顔を作るのはソラリスの「海」っぽいと思った。あと、《都市》から逃げるために嵐の中で車の運転してるときに、Novik がエデンの話をしていたり、同じ作者の別作品ネタも入ってるのかもしれない。
- 初見では殺してしまったが、Krauta 博士を助けるルートもあった。あと、Gorsky も。最初はなんもわからず選択肢を選んでいたから、Gorsky に酸素パックを渡さずに、そのせいで助からなかったり。一応、やり直して、Krauta と Gorsky を助けるルートはやったけど、Gorsky 博士に酸素渡した後に滑落して、脱出するために洞窟を進む途中で Krauta 博士の幻覚を見たり、結構変わってきてすごいね。
- 最初のプレイでは、なんもわからずにみんな見殺しにしちゃって、なんか、その時はそれしか進む道が無いように見えて、後から別の選択肢もあったことに気づくって自分の人生みたいだな。
- 声だけだけど、ロアンが出てきてうれしかった。どちらかというとバッドエンドだけど。
- 無線で目に見えたものを片っ端から報告することで話が進んでいくのは、Firewatch っぽいなと思った。
- 「Not everything everywhere is for us」が視力検査表になっているのをコンドル号で見つけて笑っちゃった。実際どういうことなの?コンドル号のスローガンか何かなの?