VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action
キャラクターの気分に影響を与える化学物質を与えることでストーリーが変化するという仕組みはすごく面白かった。会話の応答を選択肢で選ぶよりもずっと影響が明確で、選択進行型のゲームとしてはこういう仕組みのほうが個人的には理解しやすかった。
とはいえファジーに変化するわけじゃなくて、明確に当たりはずれがある感じなのは実装上難しいから仕方ないんだろうなと思う。
匿名掲示板とか、SJW(もう古いけど)とか、いまどきっぽい話題は出てくるけど、わりと雰囲気はちょっと昔のSFというかハードボイルド小説な感じで、想像してたノリと少し違うかもと最初は思った。でも、各キャラクターの人となりが見えてくると心情も分かってきて面白かった。
キャラクターの好みとかに限らず、序盤はとっつきづらいけど、進めていくうちにだんだん理解できてくる、みたいなプロセスがあるゲームが自分は好きなのかもしれない。
とりあえず生活基盤を構えたけど、特定の他者との親密な関係を築けなかったり、アイデンティティの揺らぎがあったり、そういう前成人期の割とありがちな危機を、リアルかどうかはさておき、ジルを通して素直な気持ちで書かれているのは好きだった。こういうテーマを一要素としてではなくメインに据えてるのはゲームとしてはなんかすごいなと思った。これは、プレイヤー(というか開発者?)の年齢層的にインディーゲームではありふれたテーマなのかもしれないけど。
自分も危機の真っただ中なので共感できるところも多い一方、自分はジルほどこういう問題に真正面から向き合ってないけど大丈夫かという気分になった(現実がフィクションのようにいかないのは当然ではあるけど)。
これはこのゲームと関係ないけど、そもそもサイバーパンク(というかハードボイルド?)SF風の雰囲気があまり好きじゃないのかもしれない。めんどくさいおっさんの話を聞かされてる感じがする。「おれはお前らと同じものを見てもとらえ方が違う、お前らよりもっと深く物事を考えてる」みたいな気持ちを勝手に感じとってしまう。昔から言われてるけど、俗っぽいものを消費しながらも、それを認められない感じががオタクらしさかもしれないし、自分もだんだんそういう風になってるなと思う。結局、こんな風に考えるのも作品を通じて自分自身を見てしまっているだけなんだろうけど。
なんとなくドノヴァンというキャラクターの描き方にそういう感じを読み取ってしまった。ドノヴァンは「俗」代表みたいなキャラクターで、絶対現実だったら関わりたくないおっさんなんだけど、そういうおっさんの心理描写を読むのは正直面白いし好きという、少し歪んだ嗜好を自分は持っている。そういう視点で見ると本作での厄介おっさんの描かれ方はちょっと突き放し過ぎというか、絶対本心じゃなく書いているなという感じがしてあまり読んでてひりつかない。ウェルベックみたいに、「これって『本物』が書いてるかも?」みたいな凄みを感じなかった。
- モデル戦士ジュリアン(STG)をやってるときは、こんなの何が楽しいんだと思ってたけど、健康とかが目的じゃない苦行ってまさしく宗教的な行為だと思った。こういう弾幕STGをやっている人たちが信仰している共通の何かがあるはず。
- 現実にいたらで言うと、セイとか星井さんみたいなまともそうな人が良いんだけど、フィクションのキャラクターってなるともうちょっと無茶苦茶なほうが面白いってなる。脚本家に「どうぞこのキャラクターを好きになってください!」と言われているような感じでなんかちょっと…となってしまう。
- 割とみんな仕事をちゃんとこなしてて辛かった。バーに来る金があるような人たちだから当たり前だけど。
- ボスが最強キャラすぎてちょっと冷めちゃう感じがあったかもしれない。メアリースーみたいな。
- コーヒートークを先にやってたから、順序的には逆だけど、インディーゲームでもこんなにまねしていいんだって思った。
- 翻訳の問題もあるけど danger/u/ の書きっぷりがあまりに、10年以上前のテレビドラマに出てくる匿名掲示板の描写という感じでちょっと読むのが辛い感じがあった。Hypnospace もそうだけど、完全に無意味でメインのプロットと全然関係ないものを載せると読み手に取ってすごくややこしくなるから、ゲーム中では何かしら意味のある議論をしている書き込みしか載せられなくなってしまうのはすごくわかるけど、やっぱり嘘くさく見えてしまう。
- これも日本語の問題かもしれないけど、「一日を変え、人生を変えるドリンクを!」がなんとなくヤバい居酒屋のスローガンみたいに聞こえる。研修で体に染みついてしまったフレーズということだから、ある意味あってるのかもしれない。