未解決事件は終わらせないといけないから
ジグソーパズルチャンピオン
断片的な供述の、その話者と順番を正しく並べ替えることで事件の真相を探っていく。正しい答えを直接選択することがないので、自発的に推理をしているような気分になる。
犀華という、同名だが全くの別人である子供が2人いて、その両親も2組いるという事実が最後まで隠蔽されているため、どこか境遇の似た別々の話者の供述が混在している。そのため自分が推理した話者と事実が違っていてもすぐには違和感を感じ取れない。この話者の特定が物語を推理するうえで非常に混乱する面白い要素になっている。
自分がプレイしたときに分かっていった順番をざっくりたどると、最初に分かっていた情報は以下の5つで、
- 犀華が行方不明になった
- 元英語教師が誘拐を自白している
- 犀華の父が未解決事件をのままにすることを望んでいる
- 犀華の母親が通報した(この時点で清崎刑事と初対面ではない)
- 犀華が死んでいる
ここで、被害者(犀華とその両親)、犯人(元英語教師)、事件の発端、犀華の今の状況という、事件に必要なすべての要素が登場していて、特に犀華が死んでいるという話が最初に出てくることで、最悪の結末を想像してしまう。この5つの情報は、最終的には話者も順番も全部ちぐはぐなのがわかるけど、誘拐犯の自首以外はすべて真実(嘘の供述ではない)というのも{なんかすごい:もうちょっとましな語彙に直す}。
その直後に分かった情報は、以下の4つで、
- 犀華には兄弟がいる
- 「恵さん」という人が子供たちの世話をしている
- 子供たちはアポロンという文房具店を頻繁に訪れている
- 犀華の祖母も関係している
振り返ってみると、この時点で物語の登場人物と関係する場所は全て出てきている。
この後は何もわからないままタグをランダムにクリックして会話を解放していったが、「犀華ちゃんが行方不明になった日付」をパスワードとして入力する必要があるところで、偶然重要なことがわかった。「犀華の母」が初めて通報した供述をもとに推理していたので2月5日を犀華ちゃんの失踪した日だと思っていたが、実際に入力すると「5」を入力する前に 0203 で解けてしまった。このことで、2月3日には何事もないような素振りをしていたり、失踪から2日後に取り乱して通報している「犀華の母」の態度が急に奇妙に見えてきて、「犀華の母」と宮城哲郎が現在はほぼ無関係というか、そもそも二人は全然別の事件のことを語っているんじゃないかという考えが生まれてきた。(他にも「犀華の母」は何かに熱心にお祈りを捧げている供述はあったけど、なんかあんまそういうことで疑うのもなと思って逆に容疑者の候補から外していた。)
こういう偶然の発見で一気にゲームの理解が進むのはノベルゲームではあまり体験したことがないから新鮮だった。オープンワールドのゲームで終盤に訪れることを想定されたマップにたまたま辿り着いて、強力なアイテムや装備を発見をするみたいな感じに近い。これが本当に偶然の発見というより、ある程度想定されているような作りになってるのもすごいなと思った。
ただ、この時点ではまだ、犀華の両親は一度離婚しているような供述もあり、宮城哲郎と「犀華の母」が過去も含めて完全に無関係とは思えずに、離婚した両親のどちらかが、何かのきっかけで子どもを連れ去ったのかと考えていた。さらにその後、宮城哲郎の妻(宮城沙羅)が2009年に亡くなったという資料と、「犀華の母」が退院したという事実が出てきても、物語中で「母」と呼ばれる人物である3名(恵、宮城沙羅、そして「犀華の母」)が別人というのがどうしても受け入れられなかった。もし別人だとしたら宮城哲郎と「犀華の母」の接点がなにもなくなってしまって推理が白紙にもどってしまう気がして、実は「犀華の母」は宮城沙羅のゴーストなんじゃないかとか無理やりにでもこじつけようとしていた。
結局まったくの無関係でたまたま近所に住んでいた2人の「母」の元に、名前と年頃が同じ娘が存在したという事実に終始翻弄されて、「推理」によって無意識的に無関係な事柄につながりを見出してしまう自分の考えをつまびらかにされる形になった(まあ、ミステリー作品として同名の人物がトリックになっているのはベタではあるけど)。
この2人の犀華それぞれの関係者の供述が入り乱れている中で、誰が何を言ったのかを考えることがすなわち、それぞれの家族に何が起こったのかという事件全体を推理する推進力になっていて、面白いミステリーをただ読むだけでなく実際に体験しているような気持ちになった。
ゲームとしても物語としてもフェアな感じ。5人全員嘘をついているとはいえどこか納得感のある理由を持っている。
「犀の角のようにただ独り歩め」という仏典に出てくる言葉があることを初めて知った。全てのつながりを否定した「おばあさん」の独善的な内省の中で事件が語られることがその「犀の角」の章と対応しているようで、エンディングでは治療途中の身である理佐子は清崎という「善友」を受け入れるという仏教的に象徴的な見方もできるようになっているのかもしれない。
- 見返すと犀華の祖母が娘の誘拐を隠蔽しようとしてめぐらした策略が結構すごい。実際に鍋を火にかけて報知器を発動させて、娘に対処させているうちに元夫に頼んで家に連れて帰ってもらうって、ちょっとニアミスしただけでうまくいかなそうだけど完璧に実行している。結局娘が失踪届を出して、それを受けて元夫が自白するという流れになったのも、最終的に功を奏したというとあれだけど、元夫に連絡せず祖母が直接警察に連絡していたらこうはなっていなかったかも。この行為が良かったのかどうかはわからないけど、少なくともこのゲームが面白くなっている一番の要因は祖母かもしれない。
- 原島公正の自白に対する清崎の長文返答でちょっと面白くなってしまった。清崎はこの時点で事件の真相をすべて知っているのに、自白を全部待ってから否定していることになんか笑ってしまった。原島も一大決心して自首決めたのにめちゃくちゃ恥ずかしくなっちゃうじゃん。白紙の状態で供述取らないと誘導尋問になっちゃうからという警察としてのプロ意識があるんだろうけど、「今、お義母様が隣の部屋に来ておられます。もうすべて話してくださいました」って最初に言ってあげてもよかったんじゃない?清崎はリーガルダンジョンでもこんな感じの態度だったような気がするけど、あれは色々なルートがあるし、狂っちゃったルートの清崎しかあまり覚えていない。
- 会話ログや資料から情報を集めて物語をうっすら想像するのは自分がプレイしたゲームでもよくあるけど、そういうのはフレーバーテキストだから正直読み飛ばしているようなところがあった。このゲームではその部分だけを抽出してしっかり推理する面白さみたいなのがある。