Else Heart.Break()

Broder Daniel で開く記憶の扉がある

Else Heart.Break()

Steam

ゲーム中にも名前が登場し、最後にコメントでも言及頂いた「Broder Daniel」、どっかで聞いたことあるなと思って調べたら jj の 曲「new work」で歌詞が借用されていた曲のアーティストだと、一気に10年以上前の思い出がわっと出てきて、ノスタルジーってこういう気持ちなのかと初めて実感した。「new work」は2010年にネット上で無料公開されたアルバム「kills」中の曲で、無料ダウンロード自体は元々期間限定だったのか知らないけどすぐにリンク切れして伝説的になったというか、自分もなんかインターネットの人たちが盛り上がってるなと思った覚えがある。(たしかリンク切れしてみんな慌ててるなかで「このミラーならまだ大丈夫」みたいな、今考えるとそれって違法じゃない?って感じのやりとりがあったような……)
自分も当時聞いてまんまと好きになったんだけど、独立系レーベルやアーティストが各々セルフホストで配信していたときの感じをこのゲームをやっていてちょっと思い出した。そういう、自分で面白いものを探しにいく、ということそのものがすでに面白いという、インターネットに初めて出会ったときにみんなが感じたであろうことをこのゲームを通じて再体験しているような気分になった。

このゲームの一番特徴的なところは、Modifierを使ってマップ中のほぼすべてのオブジェクトの挙動を好き勝手に書き換えられることで、これが本当に楽しくて(プログラムの経験が本当に一切無いとどう感じるのかは自分にはわからないけど)好き勝手に歩き回りハッキングできそうなオブジェクトをしらみつぶしに探して、誰にも頼まれていないのにただ「できそうだから」という理由だけでセキュリティを突破しようとした。
他にもゲーム中のオブジェクトやマップの情報を全部ダンプしてその座標にいつでもテレポートできたり、クレジットカード残高をめちゃくちゃ増やしたり、スロットのコードを書き換えて常に大当たりするようにしたり。これまでやったゲームの中で一番自由を感じたかもしれない。
これらのコードの書き換えがクエストなどで指示されることがほぼなく、さらにそれをやったことでゲーム中のNPCに褒められたり反応があったりするわけでもはないことが妙な達成感を生み出していた。ゲームを意図的にバグらせているというか RTA プレイヤーの終着点に辿り着いた感覚を仮想的に体験したような気分になる。なんかいかにもって感じであれだけど exploit したぞという感じ。

物語的には、支配的な巨大テック組織(企業なの?行政機関なの?最後までよくわからなかった) Ministry の実験台になっている町 Dorisburg を舞台に、成り行き的にレジスタンスに加入した主人公が友達の恋人を助けるために最終的に中央集権的なコンピューターを破壊するという、割と分かりやすいストーリーで分岐もなく直線的なんだけど、なんとなくゲーム全体に通底する無常観というか嫌味じゃないそっけなさに惹かれたというか、そういう厚かましくない演出もプレイヤーの自由な行動を阻害しない要因として働いていたかもしれない。

プレイヤーの気持ちの赴くままに自由にマップを探索しようと謳っているゲームはたくさんある(よね?)と思うけど、ここまでその思想を一貫して作ってあるのはすごいなと思った。これはプログラミングのゲームではあるけど、プログラミングそのものが目的ではなく、あくまで自分で好き勝手探して何かを発見する面白さを提供する手段として扱われていて、そしてそれがゲームとしてうまくいっている(と思う)稀有な作品だと思った。

  • いろいろ書いたけど実際これで初めてプログラミング触りましたって人はどう感じるのかは全然見当もつかない。ただだるいパソコンオタクのゲームだなとしか思われないのかもしれない。
  • このゲーム中の重要アイテム Modifier を入手するまでの道のりが結構わかりづらいのも自分で探し出して見つけた感をブーストしていて、結果論ではあるけど良かった。2時間近く町を徘徊して偶然ノーヒントで Ministry の裏手に落ちているものを拾ったおかげで、意図しないタイミングで強力なアイテムを手に入れた感じがした。
  • 全体的に演出は派手ではないけど、テクスチャは味があってかっこいいし、最後の Heart.Break() に気づいたときはテンション上がった。すごい爆音だったし。
  • クレジットカードを店員に手渡しするのに毎回めちゃくちゃビビってた。でもこういうのって割とここ数年の常識だったりする?流石にこのゲームが発売された2016年には店員に渡さず自分で機械に挿れるようになってたと思うけど、なにも思い出せない。
  • 最後の最後まで靴屋の店員の NiniPixie を同一人物だと思ってた。Slurp() を覚えたてのころに偶然入ったラジオステーションで Pixie は靴屋の店員だと言われてそれでずっと勘違いしてた。他にもストーリーとかキャラクターとか勘違いしたままのことがたくさんあるような気がする。英語で自動送りなのはさすがに辛い。